現代美術と人文社会学の調査研究の領域が、交錯しはじめている現代、社会学や人類学調査に基づいて作品を制作したり、プロジェクトを行うリサーチ=ベースド・アート(Research-Based Art/RBA)は、1990年以降の現代美術における「社会的転回」もあり、大きく広がっている。これには、「関係性の美学」や「参加型芸術」、コミュニティ・アートなど新しい美術の形式の登場、メディアやコンピュータなどテクノロジーの発達、そして美術館や博物館の変容に対応したものである。
その一方で、これまではテキストを中心として行われてきた社会学や文化人類学、文化研究、そして教育学も理論や研究方法論、研究対象の変化、そしてメディアテクノロジーの変容を受けて、さまざまなアート、視覚芸術、音楽/サウンドアート、パフォーミングアート、写真や映像、音や触覚など新しいメディアを使ったアート=ベイスド・リサーチ(Arts-Based Research/ABR) やアーティスティック・リサーチを発展させてきた。こうした成果は、単なる研究発表としてではなく、研究のプロセスを積極的に社会に還元しようとする実践や教育、ワークショップなどで広くみられるようになっている。 この国際会議は、こうした二つの異なった領域で独自の発展を見せつつ、お互いに交錯しつつある現代美術と人文学的調査の二つの領域の交錯点、類似点や相違点を検討するとともにその可能性を探るものとして開催した。
24名と1組の発表の他、基調プレセンテーション・パフォーマンスとして社会学者、慶應義塾大学教授 岡原正幸、香港理工大学副教授 潘律(パン・ルー)、シンガポール国立大学(NUS)助教授 シモーヌ・シュイェン・チュン、映像人類学者、国立民族博物館准教授 川瀬慈らが登壇した。